
凍てつくような寒さの中、空から静かに舞い降りる雪。
舞い降りてくる光景も美しいですが、写真などで目にする雪の結晶もとても美しいですよね。けれどその美しい形は唯一無二で同じ形のものはありません。 この雪の結晶のデザインを決めているのも、私たちのまわりにいつもある“空気”なのです。
なぜ雪の結晶は六角形?

雪は、空気中の水蒸気が冷やされて氷の粒として成長したものです。 水が氷に変わるとき、水分子同士が最も安定する位置関係で結びつきます。
その安定した形が六角形であるため、雪の結晶は基本的に六角形をベースに計上が変化していきます。 しかし、上空の気温や水蒸気の量がほんの少し違うだけで、結晶の枝の数や伸び方、厚みは劇的に変化します。 水蒸気が空気の中で出会った条件が違えば、結晶の形も変わっていく。 そのため「同じ雪の結晶は二つとしてない」と言われるのです。
結晶の形で空気の状態がわかる

上空の気温がマイナス10℃〜20℃くらいのところでは雪の結晶は横に成長して板のような形になるのが特徴的です。水蒸気の量が多いと雪の結晶は針のような形になったり、さらに成長して木の枝のように枝分かれした樹枝状の形になります。[1] 雪は小さな粒ですが、その結晶の形から「どんな空気と触れあってきたのか」ということを読み解くことができます。 つまり雪の結晶は、「空気の状態を写しとった写真」のような存在なのですね。
日本での雪の結晶研究

1832年(天保3年)に刊行された『雪華図説』は、日本で初めて科学的視点から記された雪についての自然科学書として高い評価を得ています。
『雪華図説』は、江戸時代に武士であった土井利位が顕微鏡を使い、雪の結晶を精密に書き留めた図鑑で、八十六種類の雪の結晶が掲載されています。[2]そして1936年には、中谷宇吉郎博士が世界で初めて⼈⼯雪を作ることに成功します。
博士は研究の意味を「雪は天から送られた手紙である」という言葉で表現したことでも有名です。[3] 空気を操って雪を育てる研究は、まさに科学が生んだ魔法のようです。
雪は家でも観察できる“空気の標本”

雪の結晶は顕微鏡がないと観察できないと思われがちですが、安価なスマートフォン用のマクロレンズを購入するなどして簡単にスマートフォンで観察することもできるようですよ。 ここでの観察で重要なポイントは、積もっている雪ではなく、舞い降りたばかりの雪を観察することなのだとか。
積もっている雪はつぶれたり、再凍結したりして元の結晶の形状が変わってしまっているのだそうです。 そっと息を止めて写し出すと、そこには枝が細やかに伸びた結晶、丸みを帯びた形、針のようにシャープな雪…多様な世界が広がることでしょう。 雪の結晶を観察しながら「この雪はどんな空気を旅してきたんだろう?」と想像してみると、冬の日が少し違って見えてくるはずです。
おわりに

滅多に雪が降らない地域で雪が降ると珍しさのあまり、つい降っている様子を写真に収めがちですよね。でも今年は少し視点を変えて雪が降った日には、地面や手のひらに落ち、融けてしまう前に、雪の結晶に目を向けてみませんか?雪の結晶は上空で空気と水が織りなす、自然が生むアートです。
きっと、冬がもっと面白く、もっと愛おしくなるはずですよ。
空気科学住宅事務局
[1]本田技研工業株式会社 Honda Kids(キッズ)『「雪の結晶」の形から空のようすを推理しよう!』https://www.honda.co.jp/kids/explore/snow/?msockid=056e0f2bd924659e10561a8fd879648c
[2]印刷博物館 『雪華図説』https://www.printing-museum.org/collection/looking/75371.php
[3]中谷宇吉郎 雪の科学館 『中谷宇吉郎について』https://yukinokagakukan.kagashi-ss.com/ukichiro/
